iPS備蓄事業に対する政府予算の削減について

iPS備蓄事業、予算減額案 山中伸弥氏「非常に厳しい」:日本経済新聞


「ストック事業」と呼ばれる、iPS細胞の再生医療への応用に向けた事業に対し、政府はこれまで年10億円規模の支援を行なってきたが、2020年から支援を打ち切る方針となった。京大iPS研は山中所長を中心とした運動を広げ、これまでに143億円程度の寄付金を集めてきたが、政府はこれをあてにして国からの支援は必要ないと判断した格好だ。

見方としては、2つの立場があるだろう。

1つ目の立場は、科学技術予算は選択と集中をすべきという原則から、本決定に反対する。iPS関連研究は非常に有望であるため集中して予算を配分すべき分野であって、寄付金があろうとも国からの支援は打ち切られるべきではない。むしろ民間寄付金と国家予算の二方面から潤沢な資金を集め、研究を発展させるべきである。そのような考えのもと、寄付金があるから予算を打ち切るという姿勢は許されないという立場が考えられる。

2つ目の立場は、公平性の観点から本決定に賛同する立場である。すでに潤沢な寄付金を集められている分野にこれ以上資金を投入しても、経済的効果は大きくない。それよりは別の方向1に資金を振り向けるほうが、国全体としての経済性にとって良いだろう、と考える。

私は後者の立場を取る。国家予算の使い方に対する説明が、後者の方がよりしやすいと考えるからだ。また、科学技術研究に対する助成という見方をしても、すでに基礎的な研究が完結しているであろうiPS関連より、未踏の分野に対する支援を行なったほうが良い。

もちろん、「iPS研は寄付金を集める努力をしている、それなのに寄付金をあてにして予算を削られてしまえば、寄付を集める努力をする動機がなくなり、長期的には予算を圧迫する結果につながる」という批判はあるだろう。だから、国は研究費が獲得しづらい研究分野に支援を行なったほうが良いと言っても、獲得するための努力はすべきであり、そのような努力は要求すべきだろう。主張していることは、民間から研究費を獲得できる程度に民間からの注目を集めやすい研究分野は国としては放っておいてもよく、研究費を集める努力をしても見向きもされないような分野に対してこそ国家予算を振り向けるべきだということである。形式差別と実質差別で後者をより問題視すると表現しても良い。


  1. 例えばあまり注目されず寄付金が獲得しづらいような基礎研究的な分野への支援や、研究者の育成や労働環境整備といった若手研究者支援などが考えられる。

霞ヶ関カンツリー倶楽部の「女性差別問題」は差別ではない

東京オリンピックのゴルフ競技会場に決まっていた霞ヶ関カンツリー倶楽部 (埼玉県川越市) が女性を正会員として認めていたかったことについて,IOCから「オリンピック憲章にそぐわない」と改善を求められ,3月20日に規約変更を決めた*1。 これに追随し,霞ヶ関CCに対して規約の改善を促す発言が東京都知事*2や五輪大臣*3などから相次いだ。 私は,霞ヶ関CCは合理性のない性差別を取りやめるべきだと思うものの,都知事や大臣などの公的機関が,その職権の行使ではないにしろ,改善を促す発言をするべきではなかったと考える。

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